WAIGEN

S極(SENRITU)+
N極(NOIZE)=
WAIGENMODORU

4 / 歪弦寄稿 / FURUSATO NI TSUITE


2011年5月、俺は横浜シティにいた。


駅構内のエスカレーターは止まり
行き交う人は放射能を恐れてか、長袖が多く、心なしか足早で
南国から来たおれだけ半袖だった。

曇天の空、
震災の余韻と影が残る街、横浜
おれはひとりの男と出会うためやってきた。

GOUPIL AND C
小嶋哲義氏
気を抜くとギターに斬られ
脳天をかち割るドラム。
いつもフルスロットル
凶暴なサウンド
バンドの二人組
その首謀者。

おれは氏に、居合いのセッションを申し込み、
どこの者とも知らないおれに
良いでしょう、やりましょうと
それを受けてたってくれ
おれはギターをからい、この街に来たのだった。

5月2日、横浜駅前の広場で氏とまちあわせる
朝っぱらから人も多い。
氏はおれの顔を知らない。
背中にからった、頭から飛び出たギターケースがおれの目印だ。

ギターをからってる人…
え〜どこ?ドキドキするわぁ…
あっ、おった!

自転車を押しながら氏がやってくる。
やっと会えた。
かわいい自転車…
穏やかな人だった。

あいさつもそこそこに、おれたちはスタジオへと向かう。
お互いの生まれ、育ち、日々、どんな暮らしをしてるか全く知らない。
そんな2人が密室でこれから、何がどうなるか分からない即興演奏をする。
おれもあまり喋らないし
氏もあまり喋らない...

『これは何かに似てる…
はっ!援助交際ぽい』

だが、ただのセッションじゃない
くくれるだけ
腹をくくってきた。

おれが一方的にグーピルサウンドに惚れ込み、ききこんでるうちに
一緒に演奏出来たら良いな どんな風になるんだろう?
ホント音が破れるかも知れん、
そんな気持ちがどんどん膨れはじめた。やってみよう!
もうすぐ、あと何歩か歩けばそれが実現する。

やるからには、全力でやる。
嬉しさと不安の気持ちが入り混じり、スタジオへと入った。

準備もそこそこ万端、
いざ、演奏に向かう
これはおれの人生において
おもしろいトピックになる。

記録するため
レコーダーの準備もした。

いざ、
演奏開始!
ドヒョ〜ん

言葉にならない音が
六畳間のスタジオを駆け巡る!
それからもう、
お互いの顔は一切見ない。音だけが勝負!
轟音につぐ轟音!さっきしゃべらなかった2人がうそみたい!

ああきたら、こうくる。
こうきたら、こう来ない。
全く予測できない、おもしろい!
漆黒の世界 2人コックピットにのって
見果ぬ星へと移動している。
それもうまく分担作業しながら!
さっき会ったばかりなのに
ふしぎ!





そんな中で一つ、事前に2人の間で決めたことがある。
それは唱歌『ふるさと』をテーマにすること。
それ以上は何も決めてないのだが、
氏は、想像以上に
『ふるさと』を練習してくれていて、演奏をしていた。
なんと誠実な人だろう

 「きちんと生きて 
きちんと死のう」

この言葉から始まる
氏のKATAKOTOの言葉通りだった。

無我夢中でわれらは弾いた。
約束の4時間はあっというまだった。
途中、静かな落ち着いた曲も演奏した。
とても繊細で、やさしく
さきほどの氏の第一印象を表してるかのようだった。






その後、おれは田舎に帰り音源の編集をした。
田んぼ、川、渓谷、森
自然があるところを
レコーダーを持って、ウロウロした。

川では地元の中学生が泳いでる横を
もくもくと川に石をジャポーンと投げては
邪魔な目でみられながらも録り、
川べりを歩いててコケでもろにすべったり
楽しい感じで録音した。

あの日横浜で録ったギターのノイズが
自然なもの(カエルの声 むしの声 川のせせらぎなど)に
聞こえるときがある。
ここはどこだっけ、あっ横浜で〜小嶋さんとやってるんだった
て思うぐらい、人は夢中になると
そんな自然界の音を
勝手に出してしまうかもしれない。
そういう音がこの「FURUSATO」では随所で聴けます。

あの日最後、駅の改札口で別れ際、
おれは小嶋さんと
滅多にしない握手をした。
その日一番感じたリアルだった。
素晴らしい時間、おれはその余韻に
浸りたくて、整理したくて、大事にしたくて
一刻も早く去った。

今時、こんなに足で稼いで作ったCDないと思います。
その後、何度も打ち合わせ、
小嶋さんが手製でジャケット作ってくれています。
愛情詰めました。
そして、どうか難しく考えないで
聴いてもらえれば幸いです。
 この作品にはそれぞれ想う
ふるさとの形があるはずです…KITTO…34曲もあるから…

初対面でもここまで出来るのさ
本気で誠意を尽くせば。
さぁ!

またやりましょう!小嶋さん
次は互いの校歌で。



國谷英樹
2011/09/05





私は誘われた
私はそれに乗った
私は行った
私は会った
私はギターを弾いた
相手もギターを弾いた
弾いたというより
音を吐き出した
得体の知れぬものが生まれた
ジョナサンでビールを飲んだ

そしてここに一枚のCDができた

ふるさとは死なず





小嶋哲義
2011/11/12